≪取材例≫ 前世は兵士でした。情報収集・通信関係のスパイをしていました。 二六歳のとき、革命の真っ只中、銃弾に当たって死んでしまいました。 死んだ世界では、スープをむりやり飲ませているところに遭遇しました。 私はスパイです。むりやり飲ませているということは、良くないことをしているのだと思い、そこから逃げ出しました。 これが『忘却のスープ』だということは、あとから知りました。 その後、七年くらいあちこち放浪していました。 でも放浪しているうちに景色がこの世にそっくりになってきました。 たぶんこの世に戻っていたのだと思います。 疲れると木の上で寝たりしました。 ある日、馬車が通りかかったので、その馬車に乗り込みました。 そして、ある家に着くと、私は生まれ変わっていました。 馬車が着いた家が今世の家で、その家には臨月を迎えた妊婦がいたのです。 ≪質疑応答≫ 「撃たれたときはどんな感覚でしたか? 痛かったですか?」 「撃たれた瞬間はもちろん痛かったですが、すぐに痛さを感じなくなりました」 「あの世では、食べたり飲んだりするのですか?」 「食べたり飲んだりはしません。でも、不思議なことにお腹も空きませんでした」 「馬車を操っていた人は誰でしたか?」 「今世のお父さんです」 「ああ、お父さんの馬車に乗った時点で、生まれる縁ができたのですね」 「そうでしょう。私は母よりも先に父に出会ったのです」 「スープがあったのは、この世の領域のすぐ隣のような気がしますが」 「私もそう思います。私が彷徨っていたのはたぶんこの世です。だからこの世とあの世は、隣同士だと思います」 (本文より)